2026年10月1日から、すべての事業主にカスタマーハラスメント対策が義務付けられます。
施行までに必要なのは、従業員へ「カスハラに気をつけましょう」と伝えることだけではありません。
会社の方針を明確にし、相談できる体制を整え、カスハラが起きたときの対応手順を決め、従業員へ周知する必要があります。採用面接やインターンシップなどで起きる「求職者等に対するセクシュアルハラスメント」への対策も、同じ日から義務化されます。
結論から言えば、企業が今すぐ始めるべきなのは、次の3つです。
- 自社で起こり得る場面を洗い出す
- 相談・報告・対応の流れを決める
- 役割別のハラスメント研修を実施し、受講記録を残す
この記事では、法改正の要点と、形だけで終わらないハラスメント研修の作り方を解説します。
※本記事は2026年9月8日時点の厚生労働省公表資料をもとに作成しています。個別の法的判断については、弁護士や社会保険労務士などの専門家へご相談ください。
2026年10月1日から何が変わるのか
厚生労働省によると、2026年10月1日から、カスタマーハラスメントと求職者等へのセクシュアルハラスメントを防止するための措置が、すべての事業主に義務付けられます。
対象は大企業だけではありません。企業規模や業種にかかわらず、顧客や取引先、施設利用者などと接する従業員がいる企業は準備が必要です。
カスタマーハラスメントの定義
厚生労働省は、職場におけるカスタマーハラスメントについて、次の3つをすべて満たすものと示しています。
- 顧客等による言動である
- 業務の性質などに照らして、社会通念上許容される範囲を超えている
- その言動によって労働者の就業環境が害される
店舗での対面行為だけでなく、電話、メール、SNSなどインターネット上の言動も対象になり得ます。
一方で、顧客からの苦情がすべてカスハラになるわけではありません。正当な申入れとカスハラを区別し、従業員が迷ったときに組織として判断できる仕組みが必要です。
求職者等へのセクハラも対象になる
同時に義務化されるのが、求職者、インターンシップ参加者、教育実習や看護実習などの実習生に対するセクシュアルハラスメントの防止措置です。
採用担当者だけの問題ではありません。OB・OG訪問、職場見学、現場社員との面談、懇親会、オンライン面接など、応募者と社員が接触する場面を洗い出す必要があります。
企業が準備すべきカスハラ対策
カスハラ対策は、研修を1回実施すれば完了するものではありません。会社のルール、相談体制、発生時の対応、再発防止までを一つの仕組みとして整えます。
1.会社の方針と判断基準を明確にする
まず、カスタマーハラスメントを許容しないという会社の方針を明確にします。
そのうえで、正当な要望と社会通念上許容される範囲を超えた言動を区別するための判断材料を用意します。暴言、威嚇、長時間の拘束、過度な謝罪要求、従業員個人への攻撃、SNSへの投稿をほのめかす脅しなど、自社で起こり得る場面を具体化することが重要です。
2.相談窓口と報告経路を決める
「困ったら上司に相談してください」だけでは不十分です。
誰に、どの手段で、どのタイミングで報告するのか。直属の上司が不在の場合や、相談しにくい場合はどうするのか。夜間や休日、店舗、コールセンター、訪問先など、勤務形態ごとの流れも決めておきます。
相談者のプライバシーを守り、相談したことを理由とした不利益な取扱いをしないことも明確に伝える必要があります。
3.発生時の対応手順を整える
現場の従業員だけに判断を背負わせてはいけません。
たとえば、次のような対応段階を決めます。
- 事実と要望を落ち着いて確認する
- 対応できる範囲とできない範囲を説明する
- 言動の中止を求める
- 上司や責任者へ交代する
- 状況に応じて対応を打ち切る
- 危険がある場合は警察や外部機関へ連絡する
- 日時、場所、発言、対応内容を記録する
緊急時の安全確保と、通常の苦情対応を同じ手順にしないことが大切です。
4.被害を受けた従業員を支援する
対応後に「終わったこと」として処理すると、従業員が一人で不安を抱えることがあります。
必要に応じて勤務場所や担当業務を調整し、産業医や外部相談窓口につなぎます。事実確認と振り返りは必要ですが、被害を受けた従業員を責めるような聞き方にならない配慮も欠かせません。
ハラスメント研修で扱うべき7つの内容
研修の目的は、法律の言葉を暗記することではありません。現場で「これは相談すべき状況か」「次に何をすればよいか」を判断できる状態をつくることです。
1.ハラスメントの定義
パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児・介護休業等に関するハラスメントに加え、カスタマーハラスメントと求職者等へのセクハラを扱います。
2.自社で起こり得る具体例
一般論だけでなく、自社の業種と職種に合わせます。小売、飲食、医療・介護、交通、宿泊、コールセンター、営業などでは、起こりやすい場面が異なります。
3.正当な苦情との違い
何でもカスハラ扱いにしないための学習です。要求内容、言動の手段・態様、継続時間、従業員への影響など、複数の観点から判断します。
4.その場での対応方法
一人で抱え込まないこと、記録を残すこと、責任者へ引き継ぐ基準、危険時の退避などを、具体的な行動として示します。
5.相談窓口と報告方法
窓口の名前だけでなく、連絡方法、受付時間、報告に必要な情報、相談後の流れまで説明します。
6.管理職・担当者の役割
管理職には、相談を受けた際の初動、事実確認、被害者への配慮、関係部署との連携を教えます。一般従業員と管理職では、必要な学習内容が同じではありません。
7.確認テストと振り返り
動画を再生しただけでは、理解したとは限りません。短い事例問題を使い、判断と行動を確認します。誤答が多い設問は、説明や社内ルールを見直す材料になります。
ハラスメント研修は集合研修とeラーニングのどちらがよいか
どちらか一方に決める必要はありません。
| 実施方法 | 向いている内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 集合研修 | ケース討議、ロールプレイ、管理職研修 | 日程調整が必要。欠席者への対応も決める |
| eラーニング | 基礎知識の統一、全社員への周知、確認テスト | 配信するだけで終わらず、期限と受講状況を管理する |
| 動画・アニメーション教材 | 判断が分かれる場面の疑似体験 | 視聴後に問いかけや解説を加える |
| マニュアル・FAQ | 現場で迷ったときの再確認 | 更新担当と改訂日を明確にする |
全社員にはeラーニングで基礎を学んでもらい、管理職や相談窓口担当者には集合研修で事例を検討してもらう方法が現実的です。
厚生労働省の「あかるい職場応援団」では、研修動画や資料が公開されています。自社教材を作成する際の一次情報としても活用できます。
研修を「やっただけ」にしない5つの運用ポイント
対象者を漏れなく登録する
正社員だけでなく、パート・アルバイト、契約社員、派遣社員、店舗スタッフなど、顧客と接する人を含めて対象範囲を検討します。
受講期限と所要時間を明示する
「時間があるときに見てください」では後回しになります。受講期限と想定所要時間を案内し、勤務時間内に学べるようにします。
未受講者を確認して案内する
全社配信しただけでは、受講の抜けを把握できません。誰が未受講かを確認し、本人や所属責任者へ案内できる仕組みが必要です。
未受講者への案内方法は、eラーニング未受講者への催促方法でも詳しく解説しています。
理解度を確認する
○×問題だけではなく、現場の事例を示して「最初に取るべき行動」を選ぶ設問を入れます。相談窓口や報告先を答えられるかも確認します。
改訂と再研修を行う
法改正、社内ルール、相談窓口、対応事例に変更があれば教材を更新します。新入社員向けの入社時研修と、全社員向けの定期研修を分けて設計すると運用しやすくなります。
LMSでハラスメント研修を管理するメリット
対象者が多いほど、研修の実施よりも、受講者登録、未受講者への連絡、結果集計、証跡保管に時間がかかります。
LMS(学習管理システム)を使えば、動画やPDF、確認テストを配信し、受講状況と成績を一元管理できます。部署や店舗別に進捗を確認できれば、未受講者へのフォローもしやすくなります。
LMSの基本機能や導入方法は、LMSとは?機能・費用・導入方法を分かりやすく解説をご覧ください。比較時の確認項目は、LMSの選び方|比較すべき10項目と失敗しないチェックリストにまとめています。
FireRocketでハラスメント研修を配信・管理する
FireRocketは、企業研修の配信と運用に対応したクラウド型LMSです。
動画、PDF・スライド、確認テストを組み合わせた研修を作成し、受講者や組織ごとの進捗と成績を管理できます。未受講者への案内、メールアドレスを持たない受講者へのID発行、多言語の学習画面、SCORM
1.2教材の取り込みにも対応しています。
教材について分からない点を受講者が質問できる「AI先生」も利用できます。AIに任せる範囲と人へ報告すべき範囲を教材内で明確にしておけば、学習後に生まれた疑問の最初の受け皿として活用できます。
法人アカウントの発行、教材登録、コース・テスト作成、受講者登録、社内確認までは無料です。まずは自社のハラスメント研修教材を登録し、管理者と受講者の両方で操作をご確認ください。
カスハラ対策とハラスメント研修に関するよくある質問
Q1.ハラスメント研修を実施すれば、法対応は完了しますか?
いいえ。研修や周知は重要ですが、会社方針の明確化、相談体制、発生時の迅速な対応、被害者への配慮、再発防止などを含めて仕組みを整える必要があります。
Q2.カスハラ対策は中小企業にも必要ですか?
はい。2026年10月1日からの防止措置義務は、企業規模を問わず、すべての事業主が対象です。
Q3.顧客からのクレームはすべてカスハラですか?
いいえ。正当な申入れはカスハラではありません。要求の内容や言動の手段・態様が社会通念上許容される範囲を超えているか、その結果として就業環境が害されているかなどを確認します。
Q4.ハラスメント研修はオンラインだけでも実施できますか?
可能です。基礎知識の周知と受講記録にはeラーニングが向いています。管理職や相談窓口担当者には、ケース討議やロールプレイを組み合わせると実践につながりやすくなります。
Q5.研修は誰を対象にすべきですか?
一般従業員、管理職、相談窓口担当者、採用担当者など、役割に応じて対象を設定します。顧客対応がある職場では、雇用形態にかかわらず現場で働く人を漏れなく受講対象にできているか確認してください。
まとめ:施行前に「相談でき、動ける状態」をつくる
2026年10月1日から、カスタマーハラスメントと求職者等へのセクシュアルハラスメントの防止措置が、すべての事業主に義務付けられます。
企業が準備すべきことは、研修動画を1本配信することではありません。
- 会社の方針と判断基準を明確にする
- 相談窓口と報告経路を整える
- 発生時の対応手順を決める
- 被害を受けた従業員を支援する
- 役割別の研修を行い、理解度と受講状況を確認する
現場で迷ったときに相談でき、組織として対応できる状態を、施行前に整えておきましょう。
